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孤高の天才 平尾成志の圧倒的盆栽パフォーマンス

独自の世界観で異端の盆栽師として注目を集める平尾成志氏によるパフォーマンスを取材しました。
高村雅子
高村雅子
盆栽妙 店長
  • 更新日:2022/8/23
  • 投稿日:2020/8/23
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孤高の天才 平尾成志の圧倒的盆栽パフォーマンス 独自の世界観で異端の盆栽師として注目を集める平尾成志氏による『盆栽パフォーマンス feat.MUSIC BLUE UNIT』が開催されました!!世界を舞台に仮着する盆栽師平尾成志(ひらおまさし)氏による盆栽パフーマンスの様子をレポートします。

今回のパフォーマンスはジャズバンド「MUSIC BLUE UNIT」の生演奏の中、平尾氏によって創り上げられる、他では見られない盆栽の世界を楽しむというもの。僅か30分程度の限られた時間の中で、盆栽の植え替えを魅せるステージショーです。

息もつかせない緊張感あふれる清新なパフォーマンスを、集まった大勢のギャラリー皆が固唾を呑んで見守りました。

平尾成志プロフィール

平尾成志(ひらおまさし)
1981年2月15日生まれ
徳島県三好市池田町出身
盆栽園『成勝園(せいしょうえん)』[埼玉県さいたま市西区]園主
http://seishoen.com/

京都産業大学を卒業後、2003年さいたま市北区盆栽町にある170余年もの歴史を誇る『蔓青園(まんせいえん)』に入門

2013年に文化庁の文化交流使を拝命し、4か月半で世界11か国を回り、盆栽を通じた文化交流活動を実施
2016年3月 瀬戸内国際芸術祭 出展「feel feel Bonsai」、盆栽パフォーマンス
2015年5月 ミラノ万博 盆栽デモンストレーション
2016年5月 自身の盆栽園となる『成勝園』をオープン
2017年2月 ドキュメンタリー番組「Bonsai meets the world」主演 マレーシア国営放送
2018年7月 FUJI ROCK FESTIVAL 19 Youtubeラウンジ・インタビュールーム デザイン
2019年4月 瀬戸内国際芸術祭 出展「BONSAI deepening toots」、盆栽パフォーマンス
2019年6月 ブリジット フランス大統領夫人、安倍総理大臣夫人 特別パフォーマンス
など活動は多岐に渡る。
未経験者向けワークショップのほか、音楽と融合させた創作パフォーマンスが国内外で高い評価を得ている

プロフィールにもありますが、平尾氏は徳島県三好市池田町出身。瀬戸内国際芸術祭2016,2019の参加アーティストであり、四国、香川県にも何かとご縁があります。

[ちなみに……徳島県三好市は、徳島県西部に位置し三好市北部は香川県にも接しており、四国4県の中で最も面積が大きい地。その中でも池田町は、四国4県に隣接し地理的に四国の中心にある所から四国の「へそ」と言われています。周辺には祖谷(いや)、大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)、清流吉野川などがあり、山紫水明の山あいの町。幼き頃の平尾氏もそんな自然、野趣あふれる環境に慣れ親しんだのかもしれません。]

盆栽パフォーマンス開始

MUSIC BLUE UNITの奏でるウッドベースが響き渡る中、登場した平尾氏。

スリムジーンズに、脚絆(きゃはん:膝の部分に巻く布)、足袋、スモーク調の鯉口シャツを合わせた、江戸前の職人風スタイル。

平尾氏はファッションにも傾聴が深く、パフォーマンス時のご衣装もご自分でスタイリグされるということですが、本日のスタイリングもラフ感満載ながら隙がありません!会場の空気が一気に引き締まります!

盆栽用のオブジェクト/器がセットされたステージに上がると、平尾氏が弟子入りした『蔓青園』の師匠:故加藤三郎氏(1915-2008年)から、亡くなる前に送られたという「金のハサミ」を掲げ、祈りを捧げはじめます。

平尾成志

加藤三郎氏は、日本盆栽協会の理事長や世界盆栽有効連盟会長を歴任し、世界に盆栽を広げるために尽力し、名匠として知られています。

平尾氏に初対面で「これから盆栽は、どんどん世界に出ていかなければいけない」とおしゃっていた加藤三郎氏。「盆栽を国内外問わず、いろんな人に伝えられる人間になってくれ」ともおっしゃっていたそうで、平尾氏はその言葉を胸に修行に励んだそうです。

その亡き師匠が、日本盆栽協会の理事を20期連続で務めた際に贈られた記念に贈られた金のハサミは師匠にとっても、大切なハサミだそうです。加藤氏が、弟子である平尾氏にかけていた期待の高さが伺いしれます。※加藤氏は2008年2月8日逝去、享年92歳。平尾氏は加藤三郎師匠の「最後の弟子」として修業。

平尾成志

平尾氏の登場だけで空気が引き締まった感じでしたが、そんな師匠の形見である「金のハサミ」を掲げた祈りのポーズに、観客は固唾を呑んで成り行きを見守っています。

MUSIC BLUE UNITの奏でる旋律だけが響き渡る、場内の緊張がピークに達するかと思われた一歩手前で、平尾氏が手を組み前に伸ばして軽くストレッチを。

その後あらかじめ設置されたオブジェ=盆栽の鉢に対峙します。

平尾成志

まずは、ハツユキカズラの根を整え、1段、2段、3段目と土台の皿に植え込みます。

平尾成志

次に真柏を鉢から出し、根を整え、2段目の皿に。

平尾成志

盆栽用のケト土を、石の隙間に押し込みつつ、クリスマスらしい、リースを彷彿とさせるヘンリーヅタを赤・緑で配します。

次に、クリスマスリーズ作りにもよく使われる、赤い実がかわいいサンキライ、長寿梅、山野草などを植え付け、真柏の角度を調整していきます。

平尾成志

器内、器のジョイント部分まで露出部に緑鮮やかな苔をはっていきます。

平尾氏の手はケト土(盆栽用の粘土質で湿り気があり、石付き盆栽によく使われます)にまみれ、灰黒色になっています。

平尾成志

鉢植えから草木を取り出し、根についた余分な土を「根掻き=爪」払い、土が払われた草木を迷うことなく、オブジェの格段に配置していきます。

ともすれば早送りでも見ているような、きびきびした動作に、見ている誰もが釘付けになっています。

息をもつかせぬ速さで草木がオブジェに植わわり、生命が吹き込まれていく過程は圧巻です。

平尾成志

平尾氏が大きな黒松の鉢植えを頭上高く持ち上げると、それに合わせてMUSIC BLUE UNITの奏でる音楽もよりスリリングな展開へと。

平尾氏の一挙一動を見守っている、張り詰めたような会場から、どよめきと歓声が起こり、場内にも緊張感が溢れます。

平尾成志

鉢を傾け、黒松を取り出すと左手で抱え、お弟子さんに託し、ケト土をもって、オブジェの鎮座する台の上に登りました。

平尾成志

そこで、オブジェの器の頂点に、黒松を据え、微調整。根を整え、押さえ、ワイヤーを配します。

平尾成志

おそらく表となる側から見て、右に流れる大きな黒松が座るのかどうか、見ている方もはらはら感が半端ないです!!

黒松が次第に安定を見、平尾氏の表情も、それに伴い、ややですが変わった気がします。

お弟子さんが渡す、ケト土を頂点の皿に入れ込むことを幾度か繰り返し、いよいよ、黒松の苔はりの作業へと。

平尾成志

苔の入ったトレーを持ち上げるお弟子さんも、精一杯手を伸ばして、台上の平尾氏の作業がスムーズになるよう支えます。

この頃には平尾氏の手首の上辺りまでケト土が付着している状態に。

苔を貼り終えると、一気に台上から降り、スピードを保ったまま、剪定に入ります。

平尾成志

最後の詰めとなり、平尾氏がオブジェの皿に植わっている真柏や黒松を、スピード感あふれるハサミさばきで剪定します。

平尾成志

ハサミを持つ左手を掲げ、観衆に向かって叫んだところで、スリリングな展開でピークを迎えていた音楽と共に終了。

現代アートのような、ややもすると無機質だったオブジェに、完全に盆栽としての命が宿った瞬間でした。

どの工程、作業にも隙がなく、スピードを保ちつつ、植物に相対する際には丁寧さに溢れていました。

登場してから、終了まで約25分のパフォーマンスに、小さなお子さんからお年寄りまで息を凝らして集中していた観衆から、惜しみない拍手が送られました。

平尾氏も、パフォーマンス中とは打って変わった笑顔で、拍手に応えます。

見ていた子供たちからは、
「盆栽ってかっこいいものだと思った!!!」
「この間見たサーカスのショーと同じくらい楽しかった!」
「目が離せなかった!」
などと、キラキラと目を輝かせて興奮気味に話していました。

盆栽を触ったことがあるというお年寄りからは、「昔盆栽をやっていて、難しいなと思ってやめたけど、パフォーマンスを見て自由に盆栽を触ってみたくなった」というコメントも。

世界30カ国以上で盆栽パフォーマンスを披露してきた経験と、確かな技術に裏打ちされた今回のパフォーマンスに、見ている人皆が満足された様子でした。

パフォーマンスを終えて、司会者からのインタビューでは、平尾氏も先程とは売って変わり、張り詰めた感じも解けた様子で作品のこと、パフォーマンスのことなど話してくれました。

パフォーマンス後のインタビュー

平尾成志

今日の作品はどういったものでしょうか?

盆栽用に販売されている器を組み合わせて、オブジェというか後の作品の器を作っています。どちらかというとエッジの効いたものがいつもであれば多いのですが、今回はクリスマスということで丸みのある、曲線が多いものにしています。

基本的に作品にタイトルは付けないそうですが。

なぜタイトルを付けないかと言いますと、タイトルを言うそこにみなさんがイメージを合わせないといけなくなってしまいます。

今日の作品をまだ正面からは見ていませんが、どう思うかはみなさんに委ねているような感じです。

使用した草木や、丸みのある感じで季節感を出しているつもりですが違うことを思われる方もいるかもしれません。

例えばこの盆栽を見て、昔山の中のこういうところで遊んだなーーとか、なつかしい感じがするなーーとか、自由に感じてもらえればいいいと思います。

ワークショップが終わるまで展示をして、埼玉県にある自分の盆栽園『成勝園』に持って帰って管理をします。

平尾成志

盆栽と言いますと、割とご年配の方がお庭でちょきちょきしているというイメージがありますが、なぜ盆栽パフォーマンスをしようと思われたのでしょうか?

盆栽は昔から当たり前にある、日本人からすると当たり前にあるようなものだと思うのです。人間て当たり前にあると、往々にしてその存在意義に気づかなかったりして、ないものをほしがる傾向があると思うんですね。

そういった点を踏まえて、盆栽をただただ置いておくよりは、パフォーマンスで見せて、みなさまに、「何をやっているんだろう」、から入って頂いて、興味を持ってもらってもいいですし、盆栽ってこんなんじゃないと思った人もいるかとは思います。

きっかけは自由ですので、まずは盆栽を目に触れてもらうという機会をどんどん作っていきたいなと思っているので、パフォーマンスをしています。

盆栽パフォーマンスを日本のみならず世界中でされていますが、海外の方の反応についてはいかがでしょうか?

盆栽に対する反応というのは様々なんですが、僕のパフォーマンスについて言えば、そんなに実は変わらないですね。

ただ美しいという観点からくるのか、別の邪念が入って見るかというのは違います。日本の方は、例えばこの一番上の樹の樹齢何年かな、高そうだな、幾らくらいするんだろう、という感覚になっちゃうんですが、海外の方は美しいから入って、美しさがなぜかを分析していって、価格の評価になるという感じです。そこが少し違うかなと思います。

平尾成志

平尾さんは瀬戸内国際芸術祭については、パフォーマンスを2回されていますが。

パフォーマンスと言いますか、作品展示をしていまして、2016年は春夏秋の女木島での作品展示が3会期で、今年2019年は夏だけになってしまいましたが、2016年に続き、切腹ピストルズというすごい集団の方とコラボパフォーマンスをさせて頂きました。

今回はジャズの演奏に合わせてパフォーマンス、瀬戸内国際芸術祭では和太鼓、かね、和の演奏の切腹ピストルズさんとコラボレーションしましたが、音楽のジャンルで作品が変わるということはあるのでしょうか?

いい作品ができるときは、バックでかかっている曲は一切聞いていません。どうして今ここでこの曲がきたのか、となってしまうようなつっこみの要素があると、音楽の方に気がいってしまいます。

MUSIC BLUE UNITさんの今日も素晴らしい演奏をして頂いたとは思いますが、まったく耳に入ってはいないのです(笑)。これは集中して作品が作れたということだと思います。正面からでき上がった盆栽を見ていませんが、手応えはあるので、今日集中してできたということは、演奏は完璧ということでした。

盆栽の道にすすむきっかけはとなったのは学生の頃方丈庭園(現本坊庭園)を見てということですが、学生の頃ということで渋いなと思うのですが。

東福寺で本坊庭園を見たのですが、作庭家重盛三玲の代表作で、一目見ただけで魅了されました。元々実家は徳島で木を切る商売をしていて、今の僕は全く真逆のことをやっている感じはしています。

大学の時に、陸上をやっていて、練習も非常に厳しく、殴る蹴るが当たり前の世界でした。今ならコンプライアンスが問題になってしまう感じですかね。植物に元々興味があったというわけではなかったのですが、陸上で自分が精神的に疲れているときに、庭園の持つ世界に入り、一瞬にしてそこにある世界に入っていけたような感じで、人を感動させるようなものがあったのです。そこを導入として盆栽の世界に入っていきました。

尊敬する方はどなたですか?

言い出すとキリがありませんが、やはり師匠である加藤三郎氏、盆栽の道に入ることを許してくれた両親です。

平尾成志

これから目指していくところ、野望というのを教えて下さい。

来年は東京五輪が開幕します。オリンピックはスポーツだけでなくその国の文化の祭典であると思うので、盆栽も注目されると思いますし、今もいろいろなところから盆栽パフォーマンスのお話が出てきているのですが、待ちの姿勢ではいたくないですね。

今も色々なところから、パフォーマンスのオファーが来ていますが、残念ながら詳細はまだ言えません。

また、来年の4月には展覧会を予定していまして、『成勝園』のある埼玉県をスタートして、できたら日本中をまわりたいと思っています。

あまり目標を作ると燃え尽き症候群になってしまうので、その点に気をつけながら、どんどん攻めの姿勢でいきたいです。

この後2時からワークショップということで、どんなことをして頂けるのでしょうか?

盆栽のワークショップというと、みなさんつい難しいことを考えがちですが、素材を植え替えして、土を入れて、苔をはって頂いたりして体験して頂きます。

あまり盆栽用の樹のある季節ではないのですが、今回なんとなくクリスマスっぽい素材を使って、季節感溢れる感じにしていますので、僕も見させて頂きますので、きっかけの1つとしてぜひ参加してみて下さい。

お手入れの仕方が心配だなという方もいらっしゃると思いますが。

きちんとした管理シートもこちらで用意していますので、心配には及びません。なんかCMみたいな、通販みたいな感じになってしまいましたが、とにかく大丈夫です! 

会場にいらっしゃる方に盆栽の魅力についてひと言頂ければ。

今日は寒い中、私の盆栽パフォーマンスを見て頂いてありがとうございます。今日の盆栽はきっかけとなればいいと思いますが、本当の盆栽のスタイルではありません。

自然が作った木の持ち味を、人間がどういう風にもっとよくしていくかというのが、本当の盆栽です。

高額な盆栽のみが盆栽というわけではありません。1,000円で買った盆栽でも盆栽です。気軽に盆栽をぜひ生活の中に取り入れてみてはいかがでしょうか?

平尾氏のトークに納得するように頷く人の多い中、会場から惜しみない拍手が送られました。

この記事を書いた人

高村雅子
高村雅子
盆栽妙の店長 盆栽家。三重県鈴鹿の田舎生まれ。大学進学を機に大阪に出て卒業後は秘書として企業で働く。結婚して退職、子育てに奮闘。子供も大きくなり、自分の時間が持てるようになったので、かねてより大好きだった植物をもっと勉強するべく、盆栽の世界へ踏み入ることに。同郷の盆栽職人 太田重幸に師事し、盆栽の奥深さを修行した後、自宅で教室を開業。2007年にインターネット盆栽販売店 盆栽妙をオープンし、盆栽メルマガ登録数日本一に。盆栽はじめるサポートに日々奮闘中。

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