作唯園 伊藤光伸
- 盆栽界の二刀流 ありえない挑戦者
- 高村雅子
- 盆栽妙 店長
- 更新日:2022/8/26
- 投稿日:2022/8/26
- 職人
盆栽界唯一無二の挑戦
盆栽界でも異色の存在である伊藤さん。なぜ異色なのかというと、2刀流に挑戦しているからである。野球でメジャーに二刀流で挑戦した大谷翔平のように、ピッチャーとバッターで1流を目指す、それを盆栽でやろうというのだ。とんでもない挑戦である。当然、伊藤さんの他にそのような盆栽職人は存在しない。盆栽の二刀流はなんのことか、それは樹作りと鉢作りのことである。一般的に、盆栽職人と陶器職人は別々で、野球のようにピッチャーとバッターが同じルール内で存在するのはなく、まったく別の風習や習慣の仕事である。
道を極めようとするあまり、考えた末の選択
盆栽職人は、自分の作った樹を、その形状や雰囲気から、陶器職人が作る盆栽鉢を選んで植え付けを行い盆栽に仕立てる。伊藤さんは初めは職人の作る鉢を選んで使用していたが、ある時、棚場に並んだ盆栽を見て違和感を感じるようになった。自分の作る木に鉢があっていないのではないか。そう思い始めるといてもたってもいられない、伊藤さんは盆栽職人をする傍ら、陶芸を勉強しはじめた。四国中央市は岡山の備前からも遠くなく、近くに陶芸を営む職人がいたので本格的に学ぶことができた。
盆栽職人が考える盆栽に合う鉢とは何か?
1年ほど通い詰めて、本格的な陶芸窯を盆栽の作業場に導入し、納得のいく鉢の制作に取り掛かった。盆栽職人と鉢職人の交流は驚くほど少ない。意見交換の場もあまりなく、それぞれが自分の納得のいくものを作ってきた。ゆえに、個性がぶつかり合うことも少なくない。伊藤さんは双方の視点から自分のイメージする盆栽と鉢を高いレベルで融合し生み出すことができるようになった。2つの道を極めようとする伊藤さん、職人人生40年だが、まだまだ終わりは見えないという。その道は大変ではないかと聞くと、「楽しんでやってるからたいへんだと思ったことはない」と考える間もなく答えた。
個性的な作品が揃う
作る鉢は備前の土を使った本格的な焼き物だ。備前焼に盆栽鉢はあまりない。器として高級な部類の備前焼では、比較的安価な陶器の鉢はつくられなかった。備前の土と風合いが色濃くでる伊藤さんの盆栽鉢は、盆栽鉢の中でも異彩を放っていると言える。また鉢だけにとどまらず、盆栽の添え物や置き物もつくっており、こちらもファンが多く、伊藤さんの作品を心待ちにしている。
独特の盆栽づくり
種から盆栽を生産しており、小さな盆栽も数多く扱う。幹に曲がりをつけて風情を出すのだが、曲のつけ方も伊藤さん独自の方法だ。一般的には針金や棒などで幹を矯正するのだが、針金の跡がのこったり、曲げの方向を細かくコントロールできなかったりと、思うように曲げるのに苦労をする。伊藤さんは、針金跡もつかず、複雑に幹を曲げることができる方法を考えて生産している。人とは違うやり方で、人とは違う盆栽を作り出すことに成功した。やり方は企業秘密とのこと詳しくは聞けなかったが、その生産方法を学びにくる盆栽職人があとをたたないという。
日々精進
作業場の奥にあるバーベル、日々トレーニングで体を鍛えているという。「大きな鉢をつくるときは力がいるからね」楽しんでいるが、もちろん努力もおこたらない。伊藤さんの生み出す作品がこれからも進化し続けることを予感させ、ワクワクが止まらない。
作唯園(さくただえん)
住所愛媛県四国中央市金生町下分742
TEL
0896-56-4008
この記事を書いた人
- 高村雅子
- 盆栽妙の店長 盆栽家。三重県鈴鹿の田舎生まれ。大学進学を機に大阪に出て卒業後は秘書として企業で働く。結婚して退職、子育てに奮闘。子供も大きくなり、自分の時間が持てるようになったので、かねてより大好きだった植物をもっと勉強するべく、盆栽の世界へ踏み入ることに。同郷の盆栽職人 太田重幸に師事し、盆栽の奥深さを修行した後、自宅で教室を開業。2007年にインターネット盆栽販売店 盆栽妙をオープンし、盆栽メルマガ登録数日本一に。盆栽はじめるサポートに日々奮闘中。
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